自社を名指しした動画がYouTubeに上がっている——そう気づいたときに最初にやるべきことは、動画のURLと画面を記録し、その内容が「意見の表明」なのか「事実として断定されたもの」なのかを切り分けることです。
そのうえでYouTubeの報告フォームから通報し、通らなければ弁護士に相談する、という順番になります。感情的にコメント欄で反論するのは、たいてい逆効果です。
この記事では、YouTube動画で会社が誹謗中傷されたときの確認手順、通報の実際の流れ、そして「ここから先は自社では無理」という線引きを、中小企業の担当者が自分で動ける形に整理します。
YouTube動画で会社が誹謗中傷されたときの最初の3手
発見した直後にやることは3つだけです。順番を守ってください。
- 記録する:動画URL・チャンネル名・投稿日時・再生数を控え、画面を丸ごと保存する
- 切り分ける:その動画が意見・感想なのか、事実として言い切っているのかを判定する
- 通報する:切り分けの結果に応じて、YouTubeの適切な窓口に報告する
やってはいけないのは、動画のコメント欄で言い返すこと、そして関係者にURLを拡散して「これを見てください」と共有することです。どちらも再生数と視聴維持率を押し上げ、結果としてその動画をYouTube内で目立たせてしまいます。
会社としての反応の出し方に迷ったら、対応の基本方針をまとめた会社への誹謗中傷の対応|社内でまず決めておくべき5つのルールを先に読んでおくと、判断がぶれにくくなります。
「動画そのもの」と「検索候補」はまったく別の問題
ここを混同すると、間違った窓口に時間を使うことになります。
YouTubeの検索窓に社名を打ったときに出てくる候補(サジェスト)と、実際にアップロードされた動画本体は、仕組みも判断基準も削除の窓口も別物です。検索候補は多くの人の検索行動から自動生成されるもので、特定の投稿者がいません。一方、動画は投稿者がいて、コミュニティガイドラインという明文化された基準で審査されます。
検索候補のほうが気になっている場合は、YouTubeのサジェストに会社名が出る|検索候補にネガティブワードが並んだときの確認と対処を参照してください。この記事で扱うのは動画本体への対応です。
もうひとつ押さえておきたいのは、動画が消えても検索候補はすぐには消えないという点です。候補は過去の検索行動の蓄積なので、原因が取り除かれても反映には時間差があります。この時間差の感覚はサジェストの反映期間はどのくらい?出るまで・消えるまでの目安で詳しく説明しています。
まずやるのは記録|動画の証拠の残し方

通報も相談も、記録がなければ始まりません。動画は投稿者の判断でいつでも削除・非公開にできます。消えてから「あの動画にこう書いてあった」と説明しても、第三者には確認のしようがありません。
URL・チャンネル名・投稿日時を控える
動画URL(www.youtube.com/watch?v= で始まるもの)、チャンネル名とチャンネルURL、投稿日時、そして発見した日時をメモします。チャンネルURLは、同じ投稿者が複数本上げている場合に一覧で確認するために必要です。
画面の見た目ごと残す
文字起こしだけでなく、画面の見た目そのものを残してください。タイトル、サムネイル、概要欄、コメント欄を含めてスクリーンショットを取ります。可能なら画面録画で動画全体を保存し、問題の発言が何分何秒に出てくるかを一覧にしておきます。
スクリーンショットを撮るときは、ブラウザのアドレスバーと日時が画面に写り込むようにするのがコツです。あとから「いつ・どのページを見たものか」が一目で分かります。
再生数とコメントの推移をメモする
発見時の再生数・高評価数・コメント件数を控え、その後は週に一度でよいので同じ項目を記録します。数字が動いていなければ静観、急に伸びていれば対応を早める、という判断材料になります。
この「定点観測」の考え方は、ネット上の評判全般に共通します。どこを見て回ればよいかは会社の評判はネットでどこまで調べられる?取引先が見ている5つの場所にまとめてあります。
その動画は通報が通る型か|4つに分けて判定する
「不愉快だから」では通報は通りません。プラットフォームは自社のガイドラインに照らして判断するので、どの条項に当たるのかを自分で言えるかが分かれ目になります。次の4つのどれに当たるかを考えてください。
1. 意見・批評にとどまるもの
「対応が遅いと感じた」「自分には合わなかった」といった感想や評価は、たとえ厳しい言い方でも、原則として削除の対象にはなりません。商品やサービスへの批評は表現として広く認められています。
この型に当たると分かったら、削除を目指すより「他に十分な情報があるか」を整える方向に切り替えたほうが早いです。対応するかしないかの判断軸は口コミサイトの悪い書き込みへの対応|放置と反論、どちらが正解かで整理しています。
2. 事実として断定しているもの
「〇〇工業は違法なことをしている」のように、確認できない内容を事実として言い切っているケースです。架空の会社名で例示していますが、こうした断定は嫌がらせに関するポリシーの対象になり得ます。通報時には、どの発言が、どの点で事実と異なるのかを具体的に書けるよう準備しておきます。
3. 個人情報が映り込んでいるもの
従業員の顔、社用車のナンバー、社員の自宅、携帯番号、名刺などが映っている場合は、通常の報告とは別の「プライバシーに関する申し立て」という手続きがあります。これは本人または代理人からの申し立てが原則なので、社内の誰が申し立てるかを先に決めておきます。
4. ロゴ・映像・写真を無断で使っているもの
自社サイトの写真、パンフレット、ロゴ、店内の撮影素材などが許諾なく使われている場合は、著作権や商標の観点からの申し立てという別ルートがあります。内容の是非とは切り離して処理されるため、実務上はこちらのほうが動きやすいこともあります。
YouTubeへの通報の手順

判定ができたら、型に応じた窓口に出します。窓口を間違えると、それだけで時間を失います。
動画単位で報告する
動画ページの再生画面の下、共有ボタンなどが並んでいる列の右端にある「…」(その他)を押すと「報告」が出てきます。ここから理由を選び、該当するタイムスタンプと補足説明を入力して送信します。
補足説明の欄は空欄でも送れますが、必ず埋めてください。「何分何秒の発言が、当社の事実と異なる」という形で、審査する人が動画を見ずとも要点をつかめる文章にします。感情的な表現は入れず、事実と時刻だけを並べるのが通りやすい書き方です。
プライバシーに関する申し立て
個人情報が映っている場合は、通常の報告ではなくプライバシーに関する申し立ての手続きを使います。映っている本人の情報、映り込んでいる箇所、なぜ特定につながるのかを説明する必要があります。手続きの途中で、投稿者に一定の猶予が与えられて自主的な編集を待つ段階が入ることがあります。
著作権・商標の申し立て
自社の素材が使われている場合は、権利者としての申し立てフォームから提出します。虚偽の申し立てには責任が伴うため、本当に自社が権利を持つ素材かを確認してから出してください。判断がつかない場合は、この型は避けて別の窓口を使うほうが安全です。
なお、通報の考え方はプラットフォームごとに違います。X(旧Twitter)の場合はX(旧Twitter)の誹謗中傷を削除依頼する手順|企業ができる通報と、その限界で手順をまとめています。
通報しても削除されないときにできること
報告した結果、「ガイドライン違反は確認されませんでした」と返ってくることは珍しくありません。ここで止まらず、次の3つを順に検討します。
情報を足して出し直す
最初の報告が短かった場合、補足説明を厚くして再度報告する余地があります。とくに「事実と異なる」と主張するなら、当時の契約書、公的な届出、公開済みの実績など、確認できる材料を文章で示すと印象が変わります。ただし同じ内容を何度も送るのは意味がありません。
自社で事実を発信する
動画が残っている以上、それを見た人は必ず社名で検索します。そのときに一次情報が自社サイトに用意されているかどうかが、印象を大きく左右します。会社概要、責任者、所在地、事業内容といった基本情報の整備については会社概要・運営者情報の充実が信頼につながる理由|風評リスクを下げる書き方で書き方を説明しています。
コメント欄と関連動画を確認する
本編よりコメント欄のほうが荒れている、あるいは同じ投稿者が続編を出している、というケースがあります。続編が複数本ある場合は、単発の投稿とは扱いが変わることもあるため、チャンネル全体を一覧で見て記録しておきます。
削除や非表示の対応を外部に相談する選択肢もあります。相談先のひとつとして、当社では成果報酬型も用意したサジェスト汚染対策サービスを提供しています。どこに頼むにせよ、何を根拠に何をするのかを説明できる相手を選んでください。
弁護士に相談する線引き

自社の通報で動かせる範囲には限界があります。次のどれかに当てはまるなら、早めに弁護士へ相談したほうが結果的に早く、安く済みます。
- 取引の中止や内定辞退など、実害がすでに出ている
- 同一人物と思われる投稿が繰り返され、止まる気配がない
- 投稿者が誰かを特定したい(発信者情報の開示を検討する段階)
- 社員個人の氏名・顔・自宅が晒されている
- 金銭の要求や脅迫めいた内容が含まれている
とくに投稿者の特定は自社ではできません。手続きには期限の考え方があり、動き出しが遅れると選べる手段が減ります。「もう少し様子を見よう」で数か月置くのが、いちばん避けたいパターンです。
相談前に何を用意すべきか、どういうケースなら相談する価値があるかはサジェストの削除は弁護士に相談すべき?依頼を検討する4つのケースと相談前の準備で整理しています。記録の取り方はここまでで説明したとおりで、そのまま相談資料になります。
社内で先に決めておく3つのこと
有事に慌てないために、平時のうちに次の3点を決めておきます。
- 誰が見つけたら誰に上げるか:現場が直接対応しない、というルールを先に作る
- 誰が記録するか:スクリーンショットと動画保存を担当する人を決めておく
- どこから外部に相談するか:金額と判断者を先に決めておくと、相談が遅れない
この3点が決まっていないと、発見から通報までに何日もかかります。決め方の具体例は会社への誹謗中傷の対応|社内でまず決めておくべき5つのルールにまとめてあります。
もうひとつ、対外的に何を言うかも決めておきます。「事実と異なる内容が含まれています」以上のことを、確認が済む前に言わないことです。
検索結果への波及を見張る

動画が一定以上見られると、影響は動画の外に出ます。社名で検索したときに動画が上位に出てくる、検索候補に動画で使われた言葉が並びはじめる、という形です。
つまり、動画への対応と並行して、検索結果側の変化も見ておく必要があります。見るべき場所は、ウェブ検索の1ページ目、社名の検索候補、そしてYouTube内の検索候補の3か所です。
自分で確認する手順はサジェストの調べ方|自社名の検索候補を自分で調べる3エンジン手順にまとめてあります。動画が出た直後は、週に一度ではなく毎日見るくらいでちょうどよいタイミングです。
見張る言葉を増やしすぎると続かないので、優先順位をつけます。どの語を登録すべきかは風評監視のキーワードの選び方|登録すべき7分類と優先順位のつけ方が参考になります。動画で使われた強い言葉は、そのまま監視対象に加えておくとよいでしょう。
実際に検索候補に出てしまった場合の対処全般は、サジェストの削除方法4つ|自分でできる対処と業者に頼む前の確認点で4つの方法を比較しています。
よくある質問
通報したことは相手に伝わりますか?
通報者が誰かは投稿者に知らされないのが原則です。ただしプライバシーや権利に関する申し立てでは、手続きの性質上、申立人に関する情報が相手に伝わる場合があります。どの窓口を使うかを決める前に、その点を確認しておいてください。
動画が削除されたら、検索候補もすぐ消えますか?
すぐには消えません。検索候補は過去の検索行動の蓄積から作られるため、元になった動画がなくなっても、しばらくは候補が残ることがあります。逆に、動画が残っていても検索する人が減れば候補が薄くなることもあります。
社員が個人で通報しても効果はありますか?
同じ動画に多数の報告が集まること自体が審査を有利にするわけではありません。組織的に大量の報告を送るよう呼びかけるのは避けてください。人数より、どの条項にどう当たるかを具体的に書いた1件のほうが有効です。
まとめ
YouTube動画で会社が誹謗中傷されたときは、①記録する→②意見か断定かを切り分ける→③型に合った窓口に通報する、という順番で動きます。動画本体と検索候補は別問題なので、窓口を混同しないことが大切です。
通報で動かないときは、情報を足して出し直す、自社で事実を発信する、という手を打ちつつ、実害が出ている・投稿が繰り返される・個人が晒されているといった段階に入ったら弁護士に相談してください。
そして、動画への対応と並行して検索結果側の変化を見張っておくこと。ここを止めると、動画が消えたあとに検索候補だけが残る、という厄介な状態になりがちです。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
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